初恋は叶わない
もう泣いてしまうことはないと思うけど、

とりあえず顔洗わないと、

涙でほっぺたが、なんか突っ張ってる感じがする。


だいたい3分なんて時間で、女の子が準備できると本気で思ってるの?


申し訳程度にメイクして、言われた通りにスカートはやめて、

Tシャツにジーンズっていう、超普段着。

それでも3分じゃ、やっぱり無理だったみたいで、

待ちきれないといわんばかりに、

今度は玄関のインターフォンが鳴る。


ピンポーン、ピンポーン!


「はーい、今行くー!」


網戸になってる窓から下に向かって叫ぶと、

鍵をつかんで慌てて階段を駆け降りた。


「おせーよ!」

「これでもめちゃめちゃ頑張ったのにぃ」

「行くぞ、ほれ」


むくれる私に投げてよこされたメットを、

なんとかキャッチする。

なんだか懐かしく感じる、その重み。

修ちゃんのバイクに乗せてもらうのは初めてじゃないけど

久しぶりだった。

免許取りたてのころは、練習がてら近所に行くのもバイクで出かけたりして、

暇してた私はそれに付き合っていた。

そのたびに修ちゃんの腰にそろそろと腕をまわしては、


「振り落とされてもいいのか!」


って怒られながら、両方の腕をグッと前に引っ張られて、

無理やりしがみつかされて。

それは安全のためであって、何の意味も持たないのに、

触れたところから伝わりそうなくらいのドキドキを持て余していた。

それほど昔でもないのに、まだ中学生だったあの頃が、

今はすごく遠くに感じる。

子供みたいに、無邪気にはしゃいでいられた自分が、

今ではうらやましく思えた。
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