初恋は叶わない
「ファミレスでいい?」

「お任せします。」

「んじゃ、出発!」


普段ならありえない密着度に、

恥ずかしすぎてついそっけない返事になる。

そんな私を気にも留めず、

修ちゃんはアクセルをふかす。


ついさっきまで、家でみかとDVD観て癒されてたのに、

なんでこんなことに…。


ようやく落ち着きかけていた胸の奥が、

またザワザワする。

なんとかしなきゃって考えているうちに、

あっという間に目的地に到着。

ようやくあの接近状態から解放されても、

顔の火照りはしばらく静まりそうになくて。

自分でも、どぎまぎして挙動不審なのがわかるから、

とにかく落ち着こう、って、何度も自分に言い聞かせ、

運ばれてきたグラスの水を、勢いよく飲んだ。

大きく開いたメニューの中に身を隠し、

ちょっとだけずらして、そこから修ちゃんの様子をこっそりうかがう。 

当の本人は、向かいの席で足を組んで、

楽しそうにメニューをめくっていた。

その態度があんまりフツー過ぎて、

意識してるこっちがバカバカしくなるくらい。


「決まった?」

「えー、そんな、すぐには無理…」


慌ててメニューに目を移し、探しているフリをする。


「迷ってんだったら好きなの全部頼めばー?奢りなんだし?」


修ちゃんがメニューから顔を上げ、にやにやしながら言う。


「『全部』って、…ここにちゃんとカロリー書いてあるでしょ?
第一、そんなに食べたら、晩御飯入らないよ。」

「いいじゃん、食いたいモノ食えば。
帰り走って帰れば、それぐらいすぐ消費できるって」

「走るなんてヤダよー!汗かくし、暑いし。」

「ワガママだなー。
んー、じゃあ、どれとどれ迷ってるか言ってみ?
どっちのがうまそうか、判定してやるから。」

って、身を乗り出して覗きこんでこられると、

顔が近すぎるんですけど。

昨日の今日で、この距離感はイヤでも意識しちゃうって。
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