儚い瞳の守り人


わたしの方を見たとき顔が痛みで歪んでいたのは気付いた。


走るスピードだって、速いことには変わりないけれどいつもより断然遅いのは、足の負担が大きかったからだろう。



ぽつりと、血が地面に流れ落ちた。


地面に染み込んで広がっていく血の横を通り過ぎた時、その鮮やかな赤色に、あの記憶が脳裏をかすめた。


ーー暗くて何も見えなかった、幼い頃のあの光景。


頭の中で作り上げられる白黒写真のように色のない倒れたお母さんとお父さん。

そこだけが色付いて目に浮かび上がってくる誰のものか分からない血の、赤。


眼帯を付けた左目が少し潤んだ。


もう……やめて‼︎やめて…やめて‼︎

見たくない……。


血は。嫌い。

血は。怖い。

血は。全てをわたしから奪う。


平凡だった日常も、当たり前だった家族の存在も、何もかもを、その赤色は、わたしの周りの色を失わせていく。


萊だけは……奪わないで。せめて。萊だけは。


わたしから取らないで。



その赤はわたしの視界を全て埋め尽くした。

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