彼は誰時のブルース
豪雨
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雨だ。
と思ったらいよいよ本降りになって、雷雨に変わった。
ゲリラ豪雨のように降り続いて、本を買ってから1時間も、最寄駅の本屋から帰れないでいた。
雨の中を帰るのを拒んでいた私だったが、長く降り続く天気に根負けして傘を買って帰ることにした。
辺りは暗くすっかり夕飯時になっていた。
先程のような豪雨や雷ではないが、結構雨脚は強い。コンビニでビニールの安い傘を買い、店を出た先で携帯を取り出した。
受診箱には1通もない。外の天気は目まぐるしく変わったのにそれにも気付かず言い争っているみたいだ、うちの両親は。
今日は休日で、珍しく父さんも休みで久しぶりに家族全員が家にいた。
なにがきっかけか知らない。昼食を済ませ自分の部屋でくつろいでたら、リビングから父さんの怒号が響いて、それからほどなくして喧嘩が始まった。
最近夫婦喧嘩が多い気がする。内容はいつも同じだ。互いの揚げ足とり。うっさんを晴らすためにやってるだけかもしれない。梅雨だから、気持ちも沈んでしまうからだろうか。
傘を開いて家まで5分の住宅街を歩く。
適当な鼻歌交じりの歌を口ずさんだ。その歌は雨の音でかき消されて誰にも聞こえない。水溜りがピシャリと跳ねて、裸足で直に穿いた靴を湿らした。
「うわ、長靴にすればよかったな」
気を利かせて出ていったつもりだったけど、無駄だった。結局2人して、私が出ていったことに気付かない。気付いていたとしても、それどころじゃなかったのか。
せめて、連絡する余裕くらい残しなよ。
傘の中を入り込んだ雨が、薄着の肩を濡らす。上着を着てくればよかった。風邪ひかなきゃいいけど。
そうして目線を肩から前に戻すと、少し先の水溜りの端に自販機が映っているのが見えた。
その自販機の前に立つ人の姿も。
1番近所の自販機だ。知り合いかもしれない。少し傘を上にして、自販機の方を見た。
「……」
私の歩幅が小さくなって止まる。
自販機の光で照らされたその横顔は、宇野泰斗だった。