彼は誰時のブルース
ー回想2
・
うちの団地には、宇野以外に同級生がもう1人居た。向田蓮といった。
遡れば小学時代、同い年の子は結構いた。だが1人2人と引っ越していき、中学まで残ったのは、その3人だけだった。
昔は彼を「蓮ちゃん」と呼んでいた。蓮は幼い頃、かなりなよなよしていた。ところが歳を重ねるとやんちゃになって、学校の中でも目立つ存在になった。中学に入ると、いわゆる、ちょい不良グループに属するようにまでなった。
同じ階に住み、親同士が仲良しだったこともある。どんなに図体が大きくなって、態度もデカくなっても、蓮は私の中で幼馴染のままだった。
「よう、つむぎ」
「おはよう」
チャラい男子の中に混じっても、蓮は私に挨拶をしてくれたし、私も彼に人間関係の気まずさも感じなかった。
「つむぎ、向田くんと仲良いの?」
「同じ団地だからね、幼稚園も一緒だし」
恐る恐る聞く女子に、そう返すのも少しだけ気持ちよかった。彼の何を怖がるんだろう、って。そう思っていた。
私と蓮は旧知の仲だったけれど、私と宇野は勿論仲良くないし、蓮もあまり宇野と仲良くなかった。
クラスも違うし部活も違う。接点は1個もなかった。
蓮は帰宅部で、少しガラの悪い同級生とつるんで、宇野は、サッカー部で、所謂優等生で。私は…バスケ部と家の往復のつまんない日々で。同じ行動範囲でも各々毎日を過ごしていた。
冬も濃くなった頃だった。
かじかんだ手を息を吹きかけながら、寒い寒いって校門を出ようとしたら、蓮が道端で座り込んでいた。
「お、つむぎ、奇遇じゃん。帰ろーぜ」
「誰か待ってたんじゃないの?」
「お前に話があるんだよ」
蓮は、その帰り道ずっと宇野泰斗の悪口を言い続けた。蓮だって団地の格差社会の1人だ。男同士だし蓮はそれなりに妬みとか、私よりも抱えていたかもしれない。
「勉強できることひけらかして自慢して、クラス全員にハブられてんだってよ」
「色んな女子に告りまくって全部フラれてるんだってよ。時期にお前にも来るんじゃね」
「サッカー部全員であいつのこと今虐めてるんだってよ」
根も葉もない噂をだらだら流す蓮に、部活で疲れていた私はただ頷いているだけだった。
「今さ、学年全員で何日あいつのこと無視できるかって話になってんだけど、聞いた?」
誰にそんなこと聞くんだ。かじかむ手を上着のポケットに突っ込んだまま、私は首を横に振った。