彼は誰時のブルース
蝉時雨
嫌味ではない。寧ろ逆だ。
いくら好きだとしても、私ならすぐ諦めてしまう。バスケもそうだった。自分の芽は出きってしまったと、高校でも部活をやる気は起きなかった。
一度だけ中学の時見た宇野のプレーからは、苦しそうな印象しか見受けられなかった。高校でも続けていると人づてに聞いて意外に思ったものだ。
人それぞれ耐久度も違うんだろうけど、私には真似できない。
ますます私と彼らの気質の差を感じる。私とは正反対の気質を持っている。
継続して続けてきたものがあるのは、将来の進路設計に大きくプラスするだろう。その点帰宅部で放課後帰るだけの私は、どこかもの足りない人間なのかもしれない。
「田之倉さんは、なんで高校で部活続けなかったの?」
相沢くんが聞く。部活の話を長引かせたのは私だ。純粋に聞きたいだけだろう。でも、正直に話したくはない。多分彼には理解できないだろうから。
「バイトやりたくて。通学時間地味に長いし、そんなに好きでもなかったから」
「マネーの為?orその仕事が好きだから?」
「もちろんマネーの為」
ハハ、と相沢くんが笑う。軽快な笑い方だ。私の周りには居なかったタイプだ。
「正直だね、田之倉さん」
「でも今はやめたよ。受験に備えてね」
「バイト部も引退したってわけだ」
「そうそう。確かに運動部だった、シフトも毎週だし、立ち仕事だし」
2、3言話して自然と会話が止む。顔を前に向けながら、久しぶりに誰かと会話らしい会話をしたな、と思った。
貴美と七海には、距離を置かれていた。
ある時、貴美と2人になった折に、電話を乱暴に切ったことを謝った。貴美は「気にしないで、私も悪かった」と言ったけれど、ギクシャクした空気は変わらなかった。
行動を共にする友人は、他に居なかった。
埒があかない。自分から動かなくてはいけないだろうと、頭では理解しても腰が重い。
半分はこの気まずさに慣れながらも、このままではまずいよな、と腰を上げた時だった。