彼は誰時のブルース
 
 
 あまり弟とは似ていなかった憶えがある。似ているのはシルエット、身長くらいか。宇野家 (と言っても宇野のお父さんとは殆ど面識ないが) の中でも一番庶民派というか、ちょっとやんちゃで気さくなお兄さん、というイメージだった。

 この兄には、苦手という意識はあまりない。子ども会でも、何度か私にも話しかけてくれた。


「ごめんね、かなり怖かったよね」

「いえ…よく憶えて下さいましたね。全然お会いしてないのに」

「俺、実家出たからね。あまり家寄り付かないし。でも田之倉ちゃん、全然変わらないから」


 それは嬉しくない。思わず眉間に皺が寄る。

 小学生から高校生と年数が経って、変わらない方が稀じゃないだろうか。むしろショックだ。悪い意味じゃないだろうけど。


「あの…なにか」

「あぁ、あのさ、今日とか泰斗と会った?」

「いいえ」

 首の後ろをさする。夏休みに入ってから、彼の姿形も見ていない。


「今日じゃなくても、最近は?」

「…見てないです」



 どうしてこんなこと聞くんだ。胸がざわつく。


「見かけてもない?」

「は、はい…」


 何度も同じような事を聞いた宇野の兄は、念を押すように聞いた。

「団地では俺んち、なんか噂になったりしてない?」

「え?噂…ですか?」

「団地の方々、噂大好きじゃん?あそこのうちはもう直ぐ出向とか、左遷とか。あそこの子は最近…ぐれたとか」

 団地のタブーによく切り込むなぁ、と感心した。だが、宇野の噂話は今のところない。

「いや特に…」

 耳には入ってない。


「そうか…連絡しても繋がらないし、久々家戻っても真っ暗で居なくてね。どこ行ったんだよ、あいつ」



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