彼は誰時のブルース
母に電話しても、留守電につながるだけ。
その後一通り街中を車で走ってみたが、泰斗の姿はなかった。通っていると聞いていた予備校に問い合わせてみた。泰斗は夏の夏期講習には参加してない。というかちょくちょく、通常授業も無断で休んでいたらしい。
優等生だった泰斗にしては意外だった。
父親の会社にも電話した。社員から、会議で父は電話に出られないと言われ、頭を抱えた。
俺の杞憂なのか?
泰斗はただの反抗期?
母と、実家にでも帰ってんのか?
母の実家に電話しようとして、電話番号を知らないことに気づいた。反抗期が終わってもズルズルと、親戚付き合いを避けていたつけだ。ため息をつく。
あいつはちゃんと飯を食っているのか。
何処にいるのか。
母は。父は。
実家なのに。まるで知らない家みたいだった。
2年前、最後に実家に帰った日のことを必死で思い出す。なにか前兆はあったのか。
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2年前も、連絡せず夕刻ごろ突然帰ってきた俺は、母に出迎えられた。母は、不愉快な顔一つ見せず、「ご飯食べる?」と聞いた。
軽く雑談をしていた時、
「ただいま」
と泰斗の声がした。途端に、母が話を切り上げて玄関に行く。
「なに」と泰斗の声が聞こえた。
「何、じゃないわよ。ヒロくん。あなた高校給食ないじゃない。あるって嘘付いたでしょう」
「いや…あるよ、学食。弁当の人もいるけど大概生徒は学食らしいんだよ。だから弁当要らないんだ」
「公立の給食なんて。中学みたいにママがお弁当作るわよ。それともなに?駄目なの?」
相変わらずだ。母は泰斗のことになると過干渉になる。どうやら私立の高校に入らなかった弟について未だに根に持っているようだ。
助け舟を出してやろう。ドアを開けて玄関の方に顔を覗かせた。
「どうしたの」
2人して一瞬動作が止まる。先に動いたのは母だ。振り返るとため息をついた。
「英治くん。この子、高校が給食なくて弁当持ちだってこと言わないから。これから作ってあげるわよって話をしてたのよ」
少し微笑んだ。目が弧を描く。シワが少し増えた。だが年にしては綺麗だ。家の中でも化粧は欠かさない。そういえば、すっぴんの母を見たこと、あっただろうか。
学食なんだから、コンビニ弁当みたいに添加物とかそんな入ってないだろう。少し困惑しているさまが見える泰斗に助け舟を出した。
「いいんじゃないの、かあさん。飯代なんてバイトすりゃ良いだろうに。それに、友達と学食で食べたいんじゃない?な、泰斗」
「ダメよ。これからひろとは予備校に通うんだから、ねぇひろと」