人魚姫
彼に片想いして7度目の夏を迎えようとしていた。
どんなに近くにいても、何も変わらないのは美姫がいたからなのかもしれない。
憂姫には初めから勝ち目なんてなかったのだから。
それはもう、ずっとずっと。 
生まれる前から決まっていたのかもしれない。


『……好きです』


そんな言葉すら伝えられなくて。

『美姫と稚秋お似合いだよね。どこかの物語に出てきそうだもん』

二人を囃し立てるクラスの声が耳に痛い。

あぁ、また息が詰まる。
呼吸が出来ない。
胸が押し潰されそうになる。

――ゴポッ……

まるで海からあがることもできない人魚のようで。自分はそんな綺麗なものなんかじゃないけれど。
7年も同じ時を過ごしていたのに、何も変わらないんだ。
好きなのに、好きだから。
好きになればなるほど、遠くなっていく気がしてた。

確か人魚姫は、好きな人に想いを告げられずに泡になっていくんだっけ。
アタシも消えてなくなったら、この想いに気付いてくれるのかしら。




「おはよう」


そんなことを考えていた時だった。
稚秋の……彼の声が頭の上で聞こえたのは。
ふと顔をあげると稚秋がにっこり笑う。


「お、はよう」


急に話し掛けられて、思わず頬を染めてしまった。
慌てて視線を逸らすと稚秋の横にいた美姫に気が付いた。
あぁ、一緒に登校ですか。


「おはよう、お姉ちゃん。どうして先行っちゃうの? 一緒に行こうって言ったじゃない」


お姉ちゃん。
憂姫と美姫は双子の姉妹だった。顔貌は同じでも、似ても似つかない雰囲気。
ふわふわの女の子らしい美姫。色で表せば白といったところか。夏のよく似合う子だった。
憂姫とは対照的で、小さい頃からそうだった。
憂姫の一番欲しいものは全て美姫が持っていた。
両親の愛も……そして、稚秋も。


「今日は、学校でやることがあったから」


嘘に嘘を重ねて、笑顔を取り繕う。
作り笑いを覚えたのはいつからだろう。
不自然で、それでいて自然。
だって、誰も気付いちゃいないもの。
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