恋風吹く春、朔月に眠る君
それからゆっくりこれまでのことを話した。司とのことは司からも聞いているだろうに、何も言わずに聞いてくれていた。それから春休みになっていろいろなことがあったこと。
流石に木花の話は出来なかったけど、朔良のお父さんが帰ってきたこと。それで朔良の様子がおかしくて心配していたこと。誕生日の日、目の前で喧嘩して、それで冷静になりたいからって突き放されたこと。
『楓だったら良かったのに』って言われて、そんなに私じゃだめなんだって思い知らされて苦しくて大嫌いだって言って飛び出したこと。全部全部話した。
「そっか........。私のタイミング悪すぎたね。やっぱり追い込んでた」
洗いざらい全て話した後の最初の感想がそれなんだから杏子は優しすぎて困る。
「そんなことないよ。それでいっぱい考えたこともあるよ。すごく悲しかったけど、杏子だってすごく悲しんでたこと解ったよ」
「......ありがとう。そう言ってくれると、助かる」
穏やかな笑みを浮かべる杏子を見て、話してよかったと思った。
「まさか、喧嘩するなんてね。初めて聞いた」
「そりゃ初めてだもん。一度も喧嘩したことなんてないよ」
「じゃあ、向こうも相当凹んでるだろうね」
初めて喧嘩したから想像がつかないだけかもしれないけど、それで朔良が凹むかな。いきなりヒステリックになってなんなんだってならないかな。
「そうかなあ。いきなりよく解らないことで怒り出して、怒ってるかも」
「ははっ、それはないよ」
杏子はけらけらと笑う。その声には確信があった。
「なんで言い切れるの?」
「だって、図星だったと思うから」
「図星?」
「うん。双葉が怒った意味、ちゃんと分かってると思うよ。朔良くんは朔良くんで一生懸命だったんだろうけど、それで双葉の想いを蔑ろにしてたこと、分かってると思う。流石に好意までは気付いてないだろうけど」
「そうかなあ」
全然実感として湧かない。でも、朔良は優しいから私が怒った理由を考えたりはしてくれているのかもしれない。
「朔良くんにとって、そんなに双葉は軽い存在だと思ってるんだ」