恋風吹く春、朔月に眠る君
「えっ、ちょっと待って。なんでそんなことを私に......!?」
急いで追いかけたけど、丁度角を曲がったところで彼女は姿を消していた。
「もう、なんなのよ......」
私の聞きたいことは何も答えてくれないくせに、自分だけ言いたいこと言って消えるだなんて.........まったく、朔良だけにしてほしい。
変な人に出会ってしまった。そう言えば、あれは幽霊、なのか.......?
朔良の話だけしてどこかに行ってしまうから分からないけど、誰にも見えてないみたいだし、きっとそうなのだろう。よく分からない幽霊だ。
「って、こんなこと考えてる場合じゃない」
時計を見遣ると、自販機に行くだけにしては時間が経ち過ぎていた。休憩が終わってしまう。
本当のことか分からないけど思い当たる節がある以上朔良のことは心配だ。でも、それも今はどうしようもない。帰りに寄ってみよう。
私の予想通りなら、部活帰りに寄ってもまだいるはず。私は急いで、体育館に戻った。
「お疲れさまでしたー!」
「お疲れさまー」
先輩に早々と挨拶をして、私は校舎へと向かう。下駄箱で靴を履き替えながら、どうして私がこんなことをしているんだろうと思った。
幼馴染という名の腐れ縁か、惚れた弱みってやつなのか、きっとどっちもだ。でも、朔良の前では世話焼きの幼馴染としていなければ、と言い聞かせる。
私が想いを告げて、幼馴染というなの関係すら失くしてしまうのは嫌だ。そうなってしまうくらいなら、私は幼馴染のままでいい。
音楽室の扉をゆっくりと押す。すると、簡単にそれは開いた。やっぱり、中に人がいる。ピアノの方を見ると、心底驚いた表情の朔良がいた。
「なんで双葉がここに......」
あの変な幽霊が言っていたことは間違いじゃなかった。それも私には知られたくなかったらしい。ということは、ますます私が思い至った予想が可能性を帯びてきた。
「変な人に教えて貰ったんだよ」
「おかしいなあ。先生以外誰にも会ってないはずなんだけど」