恋風吹く春、朔月に眠る君
「軽い存在って.......。まあ、友達として、幼馴染として、くらいは考えて大切にしてくれてるんじゃない? でも、それなら楓の方が気が合うだろうし、さっきも話したように少なくとも中学の時は楓が好きだったみたいだから、幼馴染3人って考えるなら私がお邪魔なくらいだよ。だからと言って、2人とも私を蔑ろにするようなことはしないけど」
「圧倒的に自分に自信がないのはそういうことか。楓ちゃんに勝てないと思ってるんだ」
納得したように私の目を射抜く杏子の視線は私の心を全部見透かすようだった。楓に勝てない。その一言が今までの私のこの言い訳じみた言い分たちをまとめてくれたみたいだ。私の中に重く圧し掛かる。
「幼馴染でいたい。この関係を壊したくない。朔良くんは楓ちゃんが好きだから。全部、本当。でも、半分くらい、楓ちゃんという存在を超えられないって思ってるんじゃないかな」
嗚呼、本当だ。今までなんで気付かなかったんだろう。そうなんだ。私はずっと楓に勝てることなんてないと思ってた。ううん、今も思ってる。朔良や楓みたいに分かりやすい特技なんて私にはない。
双子の姉妹。同い年なのに、やっぱり楓の方がお姉ちゃんだった。絵だって、ピアノだって、勉強だって、いつも楓の方が上だった。楓の方がいつも器用で、苦手なのは運動くらい。先生からの評価も高い優等生。分りやすく並べたてられたステータスだけど、それでも私にとっては圧倒的に見せつけられた差だった。
そして、同じような特徴を持っている2人。朔良と楓はとてもお似合いだ。私は昔から、何も合わせようとしなくても意見が合って一緒にいられる2人がすごく羨ましかった。私だけ1人置いてかれるみたいで、苦しかった。
「杏子はすごいね。その通りだよ。私ね、ずっと、朔良は楓の代わりに頼るんだろうなあと思ってたのかもしれない。朔良が楓に好きって言ったのを聞いた後、2人が話さなくなった時期あったでしょ?」
杏子は黙って頷いて続きを促した。