恋風吹く春、朔月に眠る君
通いなれた通学路を辿って学校へ行く。近くになるにつれて、ちらほらと同じ制服を着た子達も同じ方向に歩いていく。春休みの間、とても綺麗に咲いていた桜は昨日より花弁が減っている。今日も風に吹かれ、ひらひら、ひらひら、舞い落ちていく。
桜の季節って特別だ。今までいた場所とさよならをして、新しい場所に会いに行く。今年の私は学年が一つ変わって、クラスの仲間が変わるだけだけど、それでも新しいクラスには誰がいるのか、楽しく過ごせるのか、なんてことを考えたりはするのだから。
学校に着くと、昇降口に貼られた紙の前で人がわらわらと集まっていた。多分、クラス分けの紙だろう。私もそれに近づく。自分の名前を探して、1組がから順に見ていく。
苗字が『奥空』の私の名前を見つけるのは簡単だった。誰か友達はいないかと探すと、杏子の名前もあった。そして、驚いたのは朔良の名前もあったこと。まさか、どっちも一緒だとは思わなかった。
でも、すごく嬉しい。これで杏子と朔良に毎日会える。去年は全然違うクラスだったから、ちょっと寂しかった。去年のクラスも好きだけど、きっと、今年はもっと好きになれる。
上機嫌で私は靴を履き替えて、自分のクラスの教室へと向かった。そして、気付く。朔良と同じクラスってまずい。いや、すごく嬉しいことだけど、今の状況的にまずい。
朔良は私を見て、どんな顔をするだろう。気まずいだろうなあ。なんだか緊張してきてしまった。学校で顔を合わせることを想定していなかったから。強張る顔のまま、教室の中に入ると杏子がいた。
「おはよう。今年は一緒のクラスだね」
すぐに話しかけに来てくれた杏子は嬉しそうだ。
「おはよう。うんっ、修学旅行のグループ一緒にしようね!」
「ははっ、気が早いなあ」
苦笑しつつも、まんざらではない様子。楽しみだなあ。
「朔良くんも一緒に行けるね」
ビクッと動きが固まる。折角、考えすぎないようにしていたのに。そりゃもちろん、一緒のグループがいいけどさ。