恋風吹く春、朔月に眠る君
本当にシツレイなやつだ。シツレイの意味分かってないけど。多分使い方間違ってない、はず。
「ふふふっ、ふたばの方がうるさーい」
そうしていつものようにバカな会話をしていたら時間なんてすぐに経つものだ。朔良と楓とお母さん、それからわたしで、帰りの遅いお父さんより早く夕飯を食べた。
3人で食べる夕食も楽しいけど、朔良がいるともっと楽しい。たくさん会話をしていると夕食の時間なんてあっという間。お風呂も入って、寝る時間になっていた。
「朔良くん、今日も双葉の部屋でいいかしら?」
お布団を敷くからとお母さんが朔良に聞くと、躊躇いなく朔良は『今日はかえでの部屋にします』と答えた。瞬間に、お風呂上がりでお茶を飲んでいた楓がふざけるなという顔で睨む。
「絶対にイヤ」
「ははっ、かえではあいかわらず冷たいなあ」
からからと面白そうに朔良は笑う。このやり取りはいつものことだ。楓は一人で寝るのが好きみたいで、朔良が一緒に寝るというとすごく嫌な顔をする。
それを面白がって朔良はいつも楓と答えるのだけど、何がそんなに面白いのやら。
「ごめんねえ。あの子、寝る時は一人が良いみたいで」
「ううん、ぼくのほうこそ困らせてごめんなさい。ふたばといっしょで大丈夫だから」
「なんかそれ、わたしと一緒が嫌みたいでカンジ悪いんですけどー」
「えっ、嫌だよ?」
「じゃあ、リビングで寝れば?」
すぐ朔良は意地悪するんだから。真顔で『嫌だよ?』って最低な奴だ。人でなし。
「うそだよ、ごめんって、怒らないで」
「分かればいいんだよ」
「ふふふっ、二人とも仲良いわね。じゃあ、お布団用意してくるからちょっと待っててね」
お母さんが朔良と私の頭をぽんぽんと撫でて、足早にリビングを出ていく。
「じゃあ、あたしたちも寝る準備しようか。あたしもうねむいや」
「うん、そうしようか」
洗面所で歯磨きを二人並んでして、お布団を敷き終わった頃に私の部屋に上がった。