恋風吹く春、朔月に眠る君
「電気消してもいーい?」
「いいよ」
天井から垂れ下がる紐を一度だけ引っ張って豆電球にした。私はベッドで、そのベッドの丁度隣になるように敷かれた布団に朔良がいる。これが私達の定位置。
どちらともなく『おやすみ』と呟いてすぐに、私の意識は深い眠りに落ちた。
一度寝てしまうと朝、お母さんに怒られないと起きないくらいには寝付きの良い私が珍しく、夜中に目を覚ました。
眠い目を擦って、もう一度寝ようとして動きが止まった。まだまだ夢と現の間にあった意識が一気に覚醒する。布団の中に朔良がいない。
「さくら.......?」
ゆったりと重い身体を持ち上げて、部屋を見回すと人影が見えた。
「ごめん、起こしちゃった?」
テラスに出られる大きな窓のカーテンを少しだけ開けて、窓に寄りかかる朔良がいた。
「びっくりした......」
「ごめんね、起こすつもりはなかったんだけど.......」
困ったように笑う顔が窓の向こうに見える月に青白く照らされて、消えてしまいそうだと思った。
「さくらのせいじゃないよ。それより、どうしたの? ねられないの?」
「うん、ちょっとね。ふたばは寝てていいよ」
そう言って、窓の外の方に視線を移した。きっと、もっと前からそうしてぼーっとしていたんだろう。月明かりだけじゃ何とも言えないけど、顔色が悪い。
「それはお父さんとケンカしてるせい?」
一気に確信に迫るようなことを言ったせいか、見えないけど朔良の顔が強張ったのが分かった。それでも私は聞くことをやめなかった。ここで引き下がったら後悔してしまう気がしたから。
「さくらはくるしいの? いたいの?」
そーっと窺い見るように朔良が此方を見た。少しだけ警戒するような顔だったけど、それより疲れているような気がした。