恋風吹く春、朔月に眠る君
「うわあ、リア充発言怖い。いやだー、ききたくなーい。彼氏がわざわざ待っててくれるって言ってくれたのとか聞きたくないー!! 裏切者ー! 双葉のことなんて信じないー!」
彩香は大袈裟に耳を塞いで絶望したように項垂れる。彩香と未希には朔良と付き合うことになったことを話してある。それからの彩香は『双葉のことなんて信じない』が口癖。付き合う気なんて全然ないみたいな素振りをしてたのが気に食わなかったらしい。でも、彩香にとってはおふざけの範疇だ。最近彼氏がいないせいか、ちょっと拗らせてるけど。
「はいはい、煩いから。古館君に双葉を取られたからって拗ねないの。部活のある日はいつでも一緒に帰れるでしょ」
「そんなんじゃないし! あたしも彼氏が欲しいの! リア充なんて末永く爆発すればいいんだ!」
というのは、違ったみたい。私を取られて拗ねてるなんて、彩香は可愛い。ちょっと笑ってしまった。
「また、明日は一緒に帰ろうね」
「ぜったいぜったい、約束ね?」
「もちろん」
「ぜったいぜったいぜったいぜったいだからね?」
「彩香しつこい」
未希の鋭いツッコミにくすくすと笑ってしまう。本当にこの2人のコンビは面白い。付き合う経緯とか根掘り葉掘り聞かれたけど、聞いてもらえたのは嬉しかった。2人とも長い付き合い故に話してこなかったこと、やっぱり後悔しているから。
勿論、杏子にもあの次の日には話して、一緒に喜んでくれた。楓なんかは帰ってすぐにやっとねと言っていた。楓は何も言わないけど私達両方の想いを知って心配していてくれたんだと思う。ほんと、双子と言えどお姉さまには敵わない。つい最近、司に会うこともあって、良かったねと言ってくれた。みんなに漸く私の気持ちが言えた。その事実は心をすっきりとさせた。
「彩香のうざ絡みに付き合ってなくていいよ。古館君待たせてるのに悪いでしょ?」
「うざ絡みじゃないし!」
即座に文句を言う彩香を見て声を出して笑ってしまう。
「ははは、未希は厳しいなあ。でも、ありがとう。朔良のとこ行くね。じゃあ、また明日部活で」
「うんっ、世間はゴールデンウィークなのに部活で悲しいけどがんばろ! ばいばーい」
「そうね、頑張ろう。ばいばい、また明日ねー」
2人と手を振り合って別れた。私は急いで校舎に入り、音楽室へと向かう。二重扉を開けて、中に入ると、やっぱり朔良はイスに座ってピアノを弾いていた。それが、ぴたりと止まる。