恋風吹く春、朔月に眠る君


その幽霊と木花を同一人物とするには十分すぎる話だった。もしかしたら違うかもしれない。でも、死ぬより前からずっと友達が欲しかった言った。記憶失くしても学校の友達が欲しかったといった理由を考えるとまず間違いないだろう。


「彼女の口から聞いたわけじゃないから分からないけどね。でも、もしそれが本当なら、生きていた時のあの子の悲しみも一緒に救ってあげたんだよ。すごいね。双葉はやっぱり、人の気持ちに深く寄り添える人なんだなあと思った」


あの日、帰ろうとした頃に桜の木が少しだけ話をしてくれた。木花が私と友達になれなかったら、友達だと気付けなかったら、彼女の魂は成仏することなく、消滅していたらしい。木花をきちんと成仏させてくれてありがとうと話してくれた。

それの本当の意味を知った気がする。木花は全然自分のことを語らなかった。もっと、知りたかったよ。辛かったね、苦しかったねって、聞いてあげたかったよ。木花のことを思う度、してあげられたことより、してあげられなかったことばかりに目が行ってしまう。


「そんなことないよ。私、たくさん木花に助けられたのに、やっぱり殆どなにもしてあげられなかったと思う。でもね、木花は十分貰ってるよって言ったの。私にとってはそれは特別なことをしたつもりはないんだけど、何気ない当然のことって大事なのかもしれない。普段からの少しの思いやりが、人の気持ちに寄り添える、のかなあ」


あんなに私に頑張れって上手な言葉で背を押してくれた木花も独りだった。独りで生きていけなかったから死を選んだ。死んでからも何十年も誰かを待っていた。私も独りだと思ってたから分かるんだ。独りって、すごく心細くて寂しい。世界から自分だけが取り残されたみたいで、全部が上手くいかなくなる。

でも、独りになりたいと望んでるわけじゃないんだ。みんな一生懸命誰かとの繋がりと大事にして生きてる。それでも見えなくなったり、千切れてしまったり、失くしてしまったりする。その上にお互い大事にしようとしていたって上手くいくわけでもない。なんて、難しいんだろう。


「独りでは生きていけないのに、誰かと繋がるのは難しいね」

「そうだね」


静かに肯定をする真剣な表情は何を思っているのだろう。じっと見つめていると、朔良は表情を緩めた。


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