恋風吹く春、朔月に眠る君
伝えないといけないと、思った。私は子供だから、なんて言って何もしないなんて嫌だ。私は君の味方だよって、そうして言葉を重ねるしかできないけど、傍にいるよって、それが朔良を繋ぎ止められるなら、なんでもいい。
「わたしはね、なにもできない。さくらとさくらのおとうさんのことだから、わたしはなにもできない。でもね、さくらが元気ないのは心配だよ。かなしいよ。
さくらがそのままずっと寝られなくて朝になっても寝られなくて、顔色わるかったりしたらイヤだよ。くるしい時はくるしいって言ってほしいよ」
「ふた、ば.......」
一生懸命になって言葉を探していたから気付かなかった。朔良の双眸から透明な雫が流れていることに。
「くるしい。くるしいよ。ぼく、ちゃんとやくそく守ってるのに。それじゃ足りないって、とうさんが言うんだ。ちゃんとやくそく守ってるのに。
ぼく、とうさんのお人形みたいで、くるしくて、かあさんは気にしなくていいって言うけど、それで二人ともケンカしてる。
かあさんにメイワクかけてるの分かってるけど、でも、あの人といるのがくるしくて、ふたばとかえでのとこににげてきたんだ」
顔を歪めて小さな胸にしまい込んだ気持ちを吐露する朔良を見て、私まで苦しくなる。そうして、気付いた時には朔良を抱きしめていた。
「うん、うん、くるしかったらくるしいって言っていいよ。いっぱいお話聞くよ。なにもできないけど、ぎゅってしてあげるから、ひとりぼっちにならないでね」
いつも優しく笑ってる朔良がその日、初めて私の前で泣いた。私には到底理解できない苦しみがあることを知った。
ーーきっと、君の痛みを完全に理解できる日なんて到底来ないと知りながら、それでもずっと私が君を守ろうと思ったんだよ。
「双葉にはなんでもお見通しだなあ」
二の句に『困ったなあ』なんて続きそうな台詞だった。ばかだ、私がそんな聡くないこと知ってるくせに。朔良だから私なりに必死になって考えてるんだよ、なんて言ってあげない。
どうせ、バレてるんだろうけどさ。