恋風吹く春、朔月に眠る君
それは自分のことに対しても同じで、干渉されるのをとても嫌うから滅多に自分のことを話したがらない。いや、そんなに顕著なわけじゃないけど、肝心なことは誰にも言わないタイプだ。
親友の雪穂ちゃんに対してだって同じだと思う。双子の私だって同じだ。でも、朔良はそれを飛び越えて、楓に思ってることを言わせるのだ。
その事実に、波一つなかった水面がゆらゆらと頼りなく揺れるみたいな感覚になる。ちゃんと呼吸出来ているのになんとなく息苦しい気がするのは気のせいだろうか。
こんな自分嫌だ。知りたくない。何度だって思ったこと、繰り返し少しずつ飲み込んで、どうにか誤魔化す私のなんて滑稽なことか。
「厭味なやつね。私がくっつくように回したんだからそんなこと思うわけないでしょ」
はあ、と一つ大きな溜息を吐いた。そんな楓に対して朔良は『素直じゃないなあ』と困った顔をしていたけど、それ以上は何も言わなかった。
暫くして電車が私達の家の最寄り駅へと到着した。
「じゃあ、わたしは先帰るから。二人とも塾頑張って」
「あー、やだな。面倒。勉強なんて授業聞いてれば分かるのに」
「頭いいやつの言うことほんと嫌味なんだけど、超うざい」
楓の容赦のない物言いにも動じない朔良はへらへらと笑う。
「それさっきもうちょっとマイルドに双葉にも言われた」
「マイルドじゃなくて悪かったね」
「ほんとだよ。その口の悪さじゃ彼氏なんて一生出来ないね?」
「あんたほんと嫌い」
心の底から軽蔑するような顔をする楓はちょっと、いや、かなり怖い。でも、このやり取り事態は見慣れた光景だから、仲裁しようとか、そういう気もない。