恋風吹く春、朔月に眠る君
「つづらちゃん優しいから10回に1回はくれるんだよぉ!」
「10回に1回ってあんた、それ絶対嫌われてるわ」
「えっ!? うそ!? つづらちゃんあたしのこと嫌いじゃないよねぇ!?」
突然、話を振られた杏子の方へと視線を戻すと、さっきまで広げていたスケジュール帳やスマホを片付けているところだった。
.......杏子ってマイペースっていうか、偶に容赦ないところあるよね。
「......? 彩香ちゃんはとても煩くて楽しい人だなって思ってるよ」
何の話かよく分かってないらしい杏子が顔を上げる。その顔はいつものぼーっとした表情で、一見何を考えてるのか分からない。まあでも、彼女にはそれ以上の他意はないことくらい、中学のからの付き合いでわかる。
「ぶっ、あはは! 杏子ちゃん最高。面白すぎなんだけど。彩香煩いらしいよ?」
「そそ、そんなことないよぉ! あたしといると楽しいってことでしょ!? 違うの!? いや、違うって言われてもあたしはそうだって信じてるんだからぁ!!」
必死な彩香はなんだか日本語がおかしい。それを面白そうに未希が煽る。
「オブラートに包んであげてくれてるんだよ。察しなよ」
「ええーっ、煩くないもん。ねぇ!? つづらちゃん!?」
一生懸命に訴えて大袈裟にバッと振り向いた一連の彩香の動きを何も見ていなかったように鞄のチャックを閉めた杏子が顔を上げた。
ここまで徹底してマイペースを貫ける杏子ってある意味すごいと思う。そして、いつも大体こんな塩対応しかしてもらえないのに杏子に話しかける彩香はもっとすごいと思う。もしかして私の周りってまともな人がいないのかもしれない。
「うん? それより、双葉だけじゃないよ。今日は彩香ちゃんにも作ったよ」
ベンチから立ち上がり、彩香に近づいて、私と同じピンクのリボンが掛かった包みを渡す。
「え、え? つづらちゃん?」
何が起こったか理解できていないらしい彩香は、受け取った包みを両の手に乗せて、目を白黒させていた。それに対して杏子は『いらないの?』と首を傾げる。