恋風吹く春、朔月に眠る君
「それで、どうしたの?」
上手く話を逸らせたつもりだった。でも、杏子はこういう時、逃がしてくれない。聞くべきことを、ストレートな言葉でぶつける。
「うーん、まあ、いろいろあって......」
朔良が好き、なんてことは誰にも言えない。一番仲良い杏子だって例外じゃない。言葉を濁すしかない私は曖昧に微笑む。
「そういえば昨日、春休みの間、用もないのに朔良君が学校来てるって話してたよね。何かあったの?」
昨日、聞かれるだろうと思っていたことだった。朔良の事情は知っているし、今更杏子に聞かれたところで朔良は怒らないだろう。
「それがね、お父さん帰ってきてるらしくて、あんまり家にいたくないんだって」
「珍しいね。今までそんなことあった?」
「ううん、一度もないよ。だから、私も驚いて......」
「それでまた、双葉が世話焼いてるんだね」
呆れた顔をして、大きく溜息を吐く。話してる間に食べ終わったらしいケーキは見事に綺麗になくなっていた。
「あはは、性みたいなもので......」
苦笑しつつ、言い訳じみたことを言うと、もう一度溜息を吐かれた。
「別に悪いことじゃないけどね。私も双葉には、弟の面倒見てもらったりとかお世話になってるし、寧ろ良いところだと思うよ。でも、あんまり安請け合いしちゃだめだよ」
朔良の問題児ぶりを知っている杏子には、私がそれでまた苦労をしていると思われたらしい。
「ごめんなさい」
「少しくらいは相談してね」
「ありがとう」
「どう致しまして。私、ケーキ取ってくるね。双葉まだまだ残ってるし、折角来たんだからちゃんと楽しんで食べなよ」
お皿を持った杏子は小さく手を振って、色とりどり鮮やかな色をしたケーキが並ぶ台へと向かう。それを見送って、私の皿に乗るケーキを見た。
「上の空で全然食べてなかったんだな」
取ってきたケーキのうち3分の1も食べていないお皿を眺めながら苦笑する。こんな状態じゃ杏子に怒られても仕方がない。