恋風吹く春、朔月に眠る君
「そうかな? 気のせいじゃない?」
「気のせいだったら俺の目を見て言ってよ」
目を見張った。朔良の顔、見てなかった。見られなかった。どんな顔して言えばいいのか分からなかったから。
前だけに向けられていた視線を横にいる朔良の方へと向ける。いつも当然のようにしていることなのに、緊張して変に躊躇するような動きになってしまった。
あの日の方がおかしなくらい上手く隠せたのに、もっと上手く隠せると思ったのに、なんでこんなに上手くいかないんだろう。もっと完璧に隠さないとバレる日なんてすぐに来てしまいそう。
「静かだったのは眠かっただけ。別に距離取ってるつもりもないよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと、昨日楽しくて騒いだから充電切れしてるの」
脱力して魂抜けたみたいな表情を添えてみせる。へへっと笑うと呆れた顔をされた。
「その顔すごくブサイクだからやめておいた方がいいよ」
「大丈夫、朔良以外の前ではしない」
「可愛くないなあ」
そうだ。私は全然可愛くない女なんだ。好きな人の前でも全力で誤魔化すことに力を注ぐくらいなんだから、救いようがない。でも、朔良に知られたくない。関係を壊したくない。
だから、可愛くない態度しか取らない腐れ縁の幼馴染でいられるなら、それでいいんだよ。
「そういえば、朔良は昨日も学校行ってたの?」
「ううん、良い機会だから我慢しようとしたけど死にそうになって、楓のとこに逃げた」
馬鹿なことを聞いたと思った。冗談で誤魔化したついでに調子に乗って話を続けようとするからこういうことになるんだ。静かにしておけば良かったものを、聞いたりするから落ち込んでしまう。
そもそも、学校が離れてしまった今でも朔良と楓は仲が良い。塾も一緒で偶に一緒に帰ったりもしている。楓は朔良を疎んでいる様子だけど、ついて回ってからかう朔良の相手をしているのだから本当に嫌いなわけじゃない。