恋風吹く春、朔月に眠る君
目が覚めると、今日も夢を見ていた気がした。昨日もそうだ。一昨日も夢を見ていた。でも、目が覚めると覚えていない。夢の中では何かを頼まれていた気がするのに。
「何かを頼まれた......?」
思い出そうとしても靄がかかったように思い出せない。思い出そうと目を瞑って考えてみたけど無駄だった。目が冴えてしまった私はベッド降りて時間を確認する。電波時計に映る文字は10時13分と書かれていた。
「部活ないと朝起きれないな」
自分の朝の遅さに呆れながら階段を下りる。皆出かけているようで家の中は静かだ。リビングに続くドアを開いて、奥のキッチンへと向かう。コップに水を一杯入れて飲むと乾いた喉が潤った。
流石にこの時間になるとお腹も空腹を訴える。食パンをトースターに入れて、その間に冷蔵庫にあった牛乳を用意した。甲高い焼けた音が鳴ってトースターを開けるとこんがりと焼けたパンのいい匂いがした。
トーストを皿に乗せ、ジャムを手にキッチンを出る。いつも座る席の前のテーブルにトーストとジャム、牛乳を置いて遅い朝食を食べた。トーストを食べ終わって、最後に牛乳を飲み干そうとしたとき、リビングのドアが開いた。
「あれ、起きてたんだ」
「うん、楓は? どこに行ってたの?」
「あいつの家だよ」
廊下の方を向いて顎で指したのは、向かいにある朔良の家のことだろう。
「今日誕生日でしょ。双葉も行くんじゃないの?」
目をぱちぱちとさせた。今日は何日だ。そうだ。四月三日、朔良の誕生日。なんてことだ。今年の春休みがいろいろなことがあって、すっかり忘れていた。
「忘れてたの?」
「今思い出した」
「それ忘れてたって言うんだよ。珍しいね。いつもお祝いしてあげてるんでしょ?」
「うん、吃驚した。お昼過ぎてから行くことにするよ」
プレゼントは春休みが始まってすぐに買っておいたから良かった。当日になって買いに行くところだった。朔良はプレゼントなんかなくてもおめでとうと言ってくれるだけで嬉しいよと言ってくれるはずだけど。
「そうしてあげなよ。あいつも喜ぶだろうから」
私じゃなくても楓が祝ってあげるだけで嬉しいと思う。口にはしなかったけど、そんなことが頭を過ぎって悲しくなった。