わたしの意地悪な弟
 亜子がわたしに右手の人差し指を向ける。

 樹に彼女ができる。ありえない話じゃない。

 動物園に行った時も、普段からも何度も思う。

 それだけ彼は人の注目を浴びるし、彼の心変わりでそれが現実のものとなるだろう。

 それでも、彼が彼女を作らないんじゃないか。

 そう思ってしまう、わたしはブラコンかもしれない。

 それだと樹の暴論が一理あることになってしまう。

「飲み物でも買ってくるよ」

 わたしは気持ちを立て直すためと、亜子の攻撃から逃れるために席を立つ。

 教室の扉のところに行くにつれ、わたしを見ていた生徒が明らかにさっと目に見て取れるように散っていく。

 樹の言葉に不満があっても、わたしに直接何かをいってくる人はいなさそうだ。

 ホッした気持ちの隙間を、複雑な気持ちが埋めていく。

 昨年までの平穏な日常を恋しく思いながらも、教室を出る。

 だが、階段を下りた時、下からショートカットの釣り目の女の子が階段を上がってくる。

 彼女はわたしを見ると、二重の目を見開き、小さく声を漏らした。

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