わたしの意地悪な弟
「大切な弟だよ」

 その時、胸が痛む。さっき、友人の前でおなじことを言ったはずなのに、わたしの心の中は全く違う。

その差は相手が樹のことをどう思っている、もしくはわたしとの関係の近さかに起因しているのだろうか。

 それを口にするのを避けていたように。

「そうですよね。安心しました。わたし、樹君に告白しようと思っています。その時は邪魔しないでくださいね」

 その宣戦布告に戸惑っていると、彼女はじっとわたしを見る。

「分かってくれるまで帰りません」

 半ば脅しのような言葉を綴った彼女と、これ以上一緒にいるのが嫌になり、頭を縦に振る。

 彼女は満足そうに微笑んだ。

「嘘吐かないでくださいね。先輩も嘘つきと呼ばれたくないでしょう?」

 彼女はとげのある言葉を残し、深々と頭を下げると、来た道を戻っていく。

 まだ梅雨の名残りのある風がわたしの頬や足を撫で上げていく。

 嘘つきとか弟とか。

 わたしは樹のお姉さんになりたかっただけなのに。
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