わたしの意地悪な弟
 わたしも最後の一口を食べ終わり、ごちそうさまと告げると、流し台にお茶碗を運ぶ。

 その足でリビングを出ていくと、階段を上ってから二番目にある部屋の前で足を止めた。

 そこには自信に満ちた笑みを浮かべている黒いシャツを着た樹の姿があったのだ。
 わたしは唇を結び、前方を見据える。

「部屋に入れないんだけど」

「古語辞典を貸して」

 わたしは無言で部屋の中にはいると、本棚から古語辞典を取り出した。それを入口付近にいる樹に手渡そうとした。

 だが、彼は一足早くわたしの部屋に入り込み、部屋の中央にあるサイドテーブルに触れる。

 わたしは眉根を寄せ、辞書を彼に差し出した。彼はそれを受け取ったまま身動きしようとしない。

「用事がないなら出て行けば?」

 わたしは冷たく言い放つ。

「姉さんって本当に整理整頓が苦手だよね。まるで子供みたい」

 彼はわたしのベッドの上に置かれた洗われたばかりの洗濯物を指差す。
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