わたしの意地悪な弟
 日和は樹を連れていくと心に決めているし、来てほしいのだろう。

 こうなった日和をそう簡単には止められない。

 確かに樹が来てくれたほうがいいことはいい。

 こういうとき、いつも樹が折れるが、今日の彼はいつもとわけが違う。

 そこまで花火が嫌いなんだろう。

 嫌がっている彼を連れていくのは気が咎め、わたしは日和を諌める方法を考えた。弁の立つ日和にどう言っていいか戸惑っていると、樹が立ち上がる。

「行けばいいんだろう」

 樹はそう乱暴に言い放つと立ち上がる。

「行くの?」

 わたしは思いがけない返答に驚く。突然の樹の申し出だったからだ。だが、日和は分かっていたかのように全く驚いた様子はない。

 樹はわたしに目もくれずに家を飛び出した。

「じゃ、行こうか」

 わたしは日和に促され、家を出る。

 まだ辺りは日の長い季節ということもあり、明るい。

 家の前の道路に出ると、少し先を浴衣姿の二人組が歩いている。
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