わたしの意地悪な弟
「少しだけここで見よう」

 わたしは樹の言葉に頷いた。

 わたしはほとんど樹と一緒に過ごした。彼を見るたびに、どんな艶やかな花火よりもキスの感触が幾度となく脳裏によみがえり、わたしの頬を常に火照らせていた。

 日和と一緒に小梅ちゃんを家に帰ってから家に帰ることになった。

 日和は自分一人で小梅ちゃんを送ると言っていたが、そこはさすがにわたしが折れなかった。

 妹を一人にするなんて絶対にできないためだ。

 家に帰ると、わたしは手早く両親に帰宅の挨拶をして自分の部屋に入った。

 ドアに背中を付けると、短く息を吐く。そして、唇をなぞると、天を仰いだ。

「キスしたんだよね」

 冗談で振りをされたときとは全く違う。

 あの時の樹の表情と、胸の高鳴りが改めて蘇り、わたしの心拍数を高めていった。
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