わたしの意地悪な弟
わたしの顔を見に来た弟
 夏休みも半分以上が過ぎ、手つかずにいた宿題が少しずつ気になる時期に入ってきた。

 英語の辞書をめくっていると、ドアがノックされる。

 返事をすると、樹が顔を覗かせた。

 キスをされて二週間が過ぎ、わたしはいつもの日常を取り戻しかけていたのだ。

 ぬいぐるみとキスをしたのと同じだと、必死に言い訳をして、やりようのない気持ちを押さえつけていた。

 その間、樹は昔に戻ったかのように、私に対して冷たい態度をとってきていた。

 だからわたしもできるだけ他人行儀な態度を取り繕い続けていたのだ。

「何?」

「勉強を教えてほしいんだけど」

「日和に教えてもらえばいいじゃない。向こうの学校のほうが進むのが速いみたいだし」

 それは彼に教える自信がなかったのと、彼とあまり一緒にいたくなかったためだ。

「日和は越谷さんの家に行くんだってさ」

「わたしが分かる範囲なら教えるよ」

 本当はノーを突きつけたかったが、それを口にすることで無駄に彼を意識しているという証明になる気がして、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
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