わたしの意地悪な弟
 お礼を言い、樹はドアを閉め部屋の中に入ってくる。そして、薄い問題集をわたしの前に差し出した。

 問題集をざっと眺めると、軽くめまいがする。高校一年で習った内容ということは分かるが、難易度が教科書のものとはわけが違う。わたしは顔を引きつらせ、その問題集の表紙を確認する。それは受験に出てきた問題をまとめたものだ。

「もうこんなの使っているの?」

「習ったところだから分かるかなと思ったんだけどいまいち分からなくてさ」

 教えると言った手前、分からないとは言えず、回答を見ながら問題の意図と解き方を理解した。そしてそれを樹に説明する。

 彼はそんな怪しい教え方でも納得したのか、頷いていた。

「俺もここで勉強するよ」

 樹はそういうと、出しっぱなしになっているサイドテーブルの上に問題集を置くと部屋を出て行った。ノートを手に戻ってくる。

「本気?」

「本気」

「自分の部屋で勉強したほうが集中できるよ」

「これ、教えてほしい」
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