わたしの意地悪な弟
 わたしのアドバイスを無視し、樹はそう声をかける。

 わたしはサイドテーブルまで行くと、その問題を覗き込む。

幸い、その問題は以前といたことのあるものだ。

わたしは彼に解き方を説明した。

樹は頷きながら、わたしの解説を聞いていた。

「分かった。ありがとう」

 彼はそういうと、ノートを開き、問題を解き始めたのだ。

「自分の部屋でといたほうがいいと思うよ」

「千波が部屋に閉じこもってばかりいるから、顔をみたかった」

 耳元でささやかれた、思いがけない甘い言葉に顔が真っ赤に染まる。

 それはあのキスの影響だろう。

「変なことばかり言わないでよ」

 戸惑いを隠すために、わざと強い口調で言い放つ。

「本気だよ。そんなに無意味な嘘はつかない」

 樹はわたしと目が合うと優しく微笑んだ。

 まるで花火大会の日にキスしたあとのような笑顔で。

 わたしの顔が反射的に赤く染まる。
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