わたしの意地悪な弟
 彼は再びペンに触れ、ノートの上を走らせた。

 そして、わたしをちらりと見る。

「俺以外のやつとこんなことするなよ」

「こんなことって」

「さっきしたこと」

「そんなのするわけないじゃない。そもそも樹としたのが初めてだったんだから」

 言いながら頬が火照るのが分かる。

 初めては言う必要はなかったかもしれない。

 だが、樹はあどけない笑みを浮かべた。

「俺もかな。俺、嫉妬深いから、千波が他の男と話をしているだけでも、めちゃくちゃ嫉妬してしまう」


「何で嫉妬するのよ」

「何ででも」

「そんなのきりがないよ。普通のクラスメイトでも話くらいはするでしょう」

「俺もそう思う」

 樹は困ったような笑みを浮かべていた。

 樹以外なら間違いなく拒んでいただろう。

 他の人だったらキスされるどころか、体に触れられるの自体が嫌だと思う。

 だが、樹にそうされてもすんなり受け入れていた。

 嫌どころか、心が満たされるような不思議な気持ちだ。
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