わたしの意地悪な弟
 わたしはあの一件で築き上げた警戒心を胸中に押しとどめ、会釈する。

「わたしは」

「藤宮千波さんですよね」

 準備されたような展開に、眉根を寄せ彼女を見据える。

 また、何か言われるのだろうか。ナイフのような言葉を耐える覚悟をしたとき、優しい声が耳を掠める。

「この前はごめんなさい。気を悪くされませんでしたか?」

「気にしていないよ」

 わたしは彼女の反応に呆気にとられながらも、場を収めるために嘘を吐く。

 気にしているなんていえば、いろいろと都合が悪いだろう。

「良かった。やっぱり素敵な人ですね。わたし、藤宮先輩にあこがれていたんです。美人で優しくて、よかったらお友達になってください」

「いいけど」

「だったら連絡先、交換しましょうよ」

 彼女は携帯を取りだすと、強引に予期せぬ展開に驚くわたしと携帯の番号とアドレスを交換していた。

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