わたしの意地悪な弟

「そうなんですね。わたしは先輩みたいに強くないから、彼氏ほしいな。でも、なかなか難しいですけどね」

 一瞬樹のことかと思ったが、彼女は樹のことには一切触れなかった。
 彼女が本気でわたしを慕っていると思えないのは、あの一学期の件があるからだろう。

「千波」

 振り向くと、樹の姿がある。

「じゃ、先輩。また今度」

 彼女は愛らしい笑みを浮かべると立ち去って行った。

「さっきの」

「知っているの?」

「顔は何度か見たことあるけど、名前までは」

「そっか。昨日友達になったの」

 友達といっても、何かが違うことは分かっていたのだと思う。

 ただ、そう言っておかないと面倒事に巻き込まれそうな気がしたというのが、素直な理由だ。

 樹はあまり興味のなさそうな顔を浮かべていた。急に、何かを思い出したかのような、小さな声を漏らす。

「そういえば船橋先輩、彼氏ができたんだってね」

「情報早いね」

「本人からメールが届いた。今度、千波も併せて四人でデートしようってさ」

「デート?」
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