わたしの意地悪な弟
 その一連の流れで、全身が心臓と化したかのように、鼓動をし始め体が熱を帯びる。

「姉さん、顔が真っ赤なんだけど」

「そんなの当たり前じゃない」

 悪戯っぽく笑った樹に、わたしは強い口調で精いっぱいの反論をする。

 今のわたしは、岡部君の話をしていた亜子と同じような顔をしているだろう。

 わたしは弟と言い張っていた彼に恋をしている。

 樹はわたしを好きだとは言わない。

 わたしも同じ理由かは分からないが、決して言わない。

 言えないのだ。

 わたしが気持ちを伝えれば、その関係は大きく変わるのだろうか。

 恋人になれればきっと今までの何倍も楽しい日々が待っている。

 だが、ノーだと断られれば、この気持ちはどこに行けばいいのか、その答えが分からなかった。



 それから幾度となく、恵美がわたしの前に顔を出すようになる。わたしは警戒心を潜ませながらも、少しずつ彼女との距離が近付いていくのを感じていた。
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