わたしの意地悪な弟
 樹は足音が止まったのに気づいたのか、振り返るとわたしを見た。

 そして、目が合うと何も言わずに目をそらす。

 今日、佐々木という少女をみたことが、わたしの口をより重くする。

「早く帰ろう。何か用事でもある?」

 今までならそういう言い方はしなかった。樹との距離を感じさせる言葉を噛みしめる。

「樹は他の子と帰りたいんじゃないの?」

 彼は眉間にわたしを寄せ、わたしを見る。 

 彼にその意思があるかは分からないが、まるでわたしを睨んでいるように感じられた。


「一緒に帰りたくないなら、そう言ってくれてもいいよ」

「そうじゃないの。ごめんね」

 わたしは不安な気持ちを打ち消すために、謝罪した。

 きっと一緒に登下校しなくなったら、わたしと樹の関係はもっと遠くなるだろう。
 自分で見たいと望んだはずなのに、あの子を見たことを後悔していた。

 樹はあの子とわたしを見比べていたりするのだろうか。

 いつもより無表情に見える彼の本心がわたしには全く分からなかった。

< 176 / 287 >

この作品をシェア

pagetop