わたしの意地悪な弟
 家に帰ると、ちょうど日和と遭遇する。

 彼女はわたしと樹を順に見ると、わたしを手招きした。

 樹はそのまま階段を上っていく。しばらくして樹の部屋の扉が閉まる音がした。

 日和はわたしとの距離を詰め、口元に手を当てる。

「最近、樹と何かあった?」

 心の中を見透かされたような問いかけにドキッとする。

「何でもないよ」
「樹に聞きたいことがあるなら聞きいてあげるよ」

 日和は頬杖をつくと、目だけを動かしてわたしを見る。

「いいよ。大丈夫」

 わたしが樹に聞きたいのは、あの子との関係と、わたしのことをどう思っているかだ。

 日和と樹には兄妹や友人といった親しさ以外は何も感じない。

 わたしと樹がキスをして、一方的な恋愛感情を持っているなど考えもしないだろう。それを伝えれば彼女はわたしを軽蔑するかもしれない。だから、いまのわたしの気持ちは誰にも伝えられないと思ったのだ。
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