わたしの意地悪な弟
 今は十一時過ぎ。利香たちとの約束の時間が一時間後に迫っていた。

 なぜ樹の部屋に来たかと言えば、彼とは今日一度も顔を合わせていないのだ。 

 そもそも佐々木さんに告白をされた辺りから、樹との関係が壊滅的になり、ほとんど話をしていない。一緒にいても会話が止まると息苦さを感じていた。

 こうして樹に声をかけるのにも妙な緊張がある。

 日和が家にいてくれればよかったが、今はないものねだりをしても仕方ない状況だ。わたしは重い心を振り払い、ノックする。

 だが、返事はない。

「樹?」

 名前を呼んでも無反応だ。

 わたしは妙に思い、扉を開けてみた。

 樹がだるそうにしてベッドから起き上がる。

「大丈夫?」

「大丈夫。今日、出かけるんだよな。悪いけど、鍵を閉めておいてくれ」

「どうかしたの?」

「頭が痛くて、体が重い」

「熱は測った?」

 わたしは樹の額に触れる。心なしか熱が高い気がする。

「熱なんてないから大丈夫だよ」

「ダメだよ。測ろう。薬も持ってくる」

 だが、立ち上がろうとしたわたしの体に樹の手が伸びる。
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