わたしの意地悪な弟
「どこにも行かないでほしい」

 彼の体がわたしの体に伸びてきて、わたしの体を抱きしめていた。だが、その力は弱く、もたれかかっているというのが正解だろう。

 熱があるから弱気になっているのだろうか。

「樹?」

 その返事のように、彼はわたしにより体を寄せてきて、余計に体が密着する。彼の息がわたしの首に触れ、自ずと顔が熱くなる。

 約束を守らないといけないのは分かっていた。だが、この状態の樹を放ってはおけない。

 利香や亜子もいるし、わたしが抜けても平気だろう。半田君には謝らないといけないけれど。

「分かったから。行かないから離して」

 彼の体が離れ、再びベッドに倒れる。わたしは高鳴る鼓動を抑えながら彼に布団をかけた。

 わたしは利香にメールを送り、事情を簡単に説明する。親が旅行中で、日和も家にいない。樹が熱を出して一人にしておけないので、ついておきたいというものだ。
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