わたしの意地悪な弟
 利香からはすぐに返事が届いた。そこにはお大事にと、半田君たちには自分から説明しておくというものだ。

樹と仲が悪いのを知っているので、深く追及されるのではないかという気持ちもあった。だが、何も聞かれずに安堵した。


 樹の部屋に戻り、彼に体温計を渡すが、その手取りがおぼつかない。

 彼はわきになんとか挟むと、そのまま横になる。

 電子音がなり、彼から体温計を受け取ると、三十九度近くを指していた。

 あまり熱を出さない樹にしては珍しい。

「今日は家にいるからゆっくり眠っているといいよ」

 目を潤ませた樹の手がわたしの手首をつかむ。

「わがままを言ってごめん」

「仕方ないよ。お父さんもお母さんもいないし、日和も出かけちゃったしね」

 彼は頷くと、そのまま寝入ってしまった。

「子供みたい」

 樹の寝顔は少年のようにあどけなかった。

 わたしは樹の額に触れた。

 まだ彼は十五歳で、少年といえば少年なんだろう。

 わたしも一歳違いなので、似たようなものには違いないが。

 春先は綺麗だったはずなのに少し荒れた肌に触れ、わたしの知らない樹の悩みがある気がした。
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