わたしの意地悪な弟
 今、樹を悩ませるとしたらあの子だろう。

 樹はわたしにしたようにあの子を抱きしめたり、キスをしたりしたのだろうか。

 弟が熱を出して苦しんでいるのに、わたしはそんなことを考えてしまい、戒めの気持ちを込めて頬を抓った。

 家にいて時々様子を見ればいいのは分かっていながらも、樹の部屋を離れられず、ほぼ一日彼の部屋で時間を過ごした。

 だが、彼の部屋のものを触るのは気が咎めたので、雑誌や本を持ちこんで、それを読んで時間を過ごしていた。

 時折、樹は目を覚まし、わたしに謝っていた。

 積もる謝罪の言葉とは裏腹に、心なしか彼の顔が綻んでいるような気がした。


 夕方前に日和が帰ってきた。

 彼女は扉が開く音を聞きつけ、階段まできたわたしを見ると目を見張る。

「もう帰ってきたの?」

「今日は断ったの。樹が熱を出して、出ていきにくくなっちゃった」

「熱? 樹が?」

「今は眠っているけどね」

「そっか。最近、あまり眠ってなかったみたいだから、無理がたたったのかな」
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