わたしの意地悪な弟
「勝手に帰れと言っているのに」

 そのとき、机の上にペンが一本残っていたのに気づき、鞄の端から差し込んだ。

「でも、毎日こうやってお迎えされるのって少し嬉しかったりしないの?」

 そう言ったのは腰ほどまでにあるロングヘアを後方で一つに縛った、クラスメイトの板橋利香だ。

目鼻立ちのはっきりとしたほりの深い顔立ちだが、一見地味な印象を与えるその髪型は彼女の華やかさを抑えるのに一役買っていた。

 先ほどの亜子は高校に入ってから親しくなったクラスメイトであまりわたしと樹のことは詳しく知らない。

ただ、利香は小学校から同じで、わたしと樹の関係もある程度はしっている。だから同じからかいであろうともその心情は大きく違うことを知っていた。

「冗談? やめてよ」

 わたしは頬を膨らませ、必死に利香に対して抵抗する。

 利香はやれやれという言葉が聞こえてきそうなほど、大げさに肩をすくめた。

 こんなことは珍しいことではなかった。そう今年の四月に彼がこの高校に入学してから一か月。毎日のように続いていた。

 わたしは覚悟を決めると鞄を手に取る。
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