わたしの意地悪な弟
 今更嘘をつきたくなかったのだ。

 それが樹との約束を破ることになったとしても。

 それにここで嘘をつけば、二度と親にも言い出せなくなる。

「好きだよ」

「千波」

 樹が驚きを露わにわたしを見た。

「だって本当のことだもん。もう嘘は吐きたくない」

「樹は?」

「好きです」

 こんな状況なのに、樹の言葉に胸がドキドキしていた。

 母親は目を伏せ、写真に視線を落とす。

「いつから付き合いはじめたの?」

 その問いかけにわたしも樹も黙り込んでしまった。

 数日前とは言い出せなかったのだ。

 わたしと樹がキスをしている写真もあるかもしれない。

「怒っているわけじゃないの。ずっと覚悟はしていたのよ。樹が千波と同じ高校に行きたいと言い出した時からね」

 母親が写真に視線を落とす。

 わたしは驚き母親を見た。

「樹はもともと日和と同じ高校を受けるはずだった。でも、突然、志望校を変えると言い出したの。日和が何か入れ知恵したみたいだけどね」

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