わたしの意地悪な弟
「怒っているの?」

 わたしはやっと勇気を絞り出し、問いかける。

「何で俺がわざわざ怒らないといけないんだよ」

「そうは思うけど、今日の昼休みと全然違うじゃない」

「千波こそ、あいつと話をして楽しかった? しつこく陸上部に誘ったりして、あいつに惚れているわけ?」

 わたしは驚きの声をあげ、樹を見る。

 まさかやきもちでも妬いているのだろうか。

 彼はすねた子供の用にわたしとは目線を合わせようとはしなかった。

 彼はずかずかと歩いてくると、手首を握る。

「そんなにあいつの部活に入ってほしい?」

「だから違うと言っているじゃない。そうじゃなくて、樹も本当は入りたいのかなって思ったんだよ。中学の時は楽しそうだったじゃない」

 彼はいつもより強いまなざしでわたしの姿を捉える。いつもと違う表情に、あの幼いとき、わたしを姉だと思っていないと言い放った記憶がよみがえる。

 彼は右手の親指でわたしの顎をぐいっと持ち上げた。
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