わたしの意地悪な弟
「するわけないじゃん。お前なんかとさ」

 彼にとってわたしはそういう扱いだと分かっていたはずなのに、この数秒の時間に利息をつけて返してもらいたくなる。

 わたしは樹の手首をつかむと、振り払う。

「分かっているよ。ただ、目に埃が入りそうになっただけだもん」

 とっさに自分でも無理があると言いたくなる言い訳を紡ぎ出し、そのバカさ加減も相成り、深いため息を吐く。

 樹はわたしから離れると、心を見透かしたような笑みを浮かべる。

「埃をとってあげようか?」

「近寄らないでください」

 わたしは睫毛を払う仕草をする。

「昔は可愛かったのに、何でこんなになったんだろう」

 頬を膨らませ、わたしは自分の部屋に戻ろうとした。

「大人になったんじゃない?」

 その言葉に反発して振り返ると、樹は涼しい顔でこちらを見ている。

 義理とはいえ姉にキスを迫る振りをして、こうやっておちょっくることのどこが大人になったんだろう。

 わたしは彼の態度に苛立ち、彼を睨むと、部屋を出た。
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