わたしの意地悪な弟
「樹」

 わたしは頬を抑えて彼を睨む。

「千波のそんな顔、見るのが好きなんだよ。でも、これから俺も気を付けるよ」

 そんな顔って樹にからかわれて怒った顔なんだろうか。それはそれで複雑な気分だ。せめて笑顔とでも言ってくれれば返しようがあるのに。

 彼はわたしの腕を引く。わたしは強引にその場で立ち上がる。

 そして、彼に引っ張られて公園を後にした。


 彼は公園を出ても、わたしの手を離さない。

 家族になる前はよくこうしていたっけ。

 昔は当たり前だったことが、今はくすぐったい。

 わたしと樹が兄弟だと知らない人が見たら、誤解されてしまいそうだ。

 仲直りできたと思ってもいいんだろうか。

 こんなに簡単ならもっと早くに気持ちを打ち明けていればよかったと思う。

 その時、樹の髪が風に揺れ、中学生の時の走る彼の姿を思い出していた。

 わたしは樹を好きだと思う機会がたくさんあった。

 その一つが走っていた彼の姿だ。樹の髪は細く、今みたいに陽の光に当たれば、茶色く煌めく。それを見るのが何となく好きだったのだ。
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