わたしの意地悪な弟
「部活断ったんだね」

「まさか、説教? そんなにあの男に気にいられたいわけ?」

 わたしは樹の言葉に首を傾げた。

 樹はわたしの気持ちに気づいたのか、眉根を寄せたが、それ以上は何も言わない。

「樹が断りたいなら断っていいと思うよ。ただ、わたしが勝手に陸上に未練があるのかなと思ったの」

「未練、か」

 樹が前方を仰ぐ。

「もともと中学までって決めていたんだ。それに俺は気付いちゃったんだよな。中学最期の大会の時に」

 彼はそこで言葉を切る。

「何を?」

 彼の最後の大会は県大会まで進み、そこそこの成績を残していたのだ。

「俺は走るのは好きだけど、負けたくないとまでは思わないんだよな。競技として走るのは何かが違うと思った」

「そっか」

 わたしは思わず樹の言葉を聞いて笑う。 

 半田君が聞けばぜいたくな悩みと言いそうだ。

 だが、その言葉は彼らしい。

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