わたしの意地悪な弟
 彼は勉強も運動もトップクラスだが、負けず嫌いというわけではないようだ。

 他人と比較してではなく、自分のために頑張っている。

 何でも持っているからこそ、そうした闘争心がわいてこないのかもしれない。

「何だよ」

 彼は頬を赤らめ、わたしを睨んだ。

「樹は樹なんだなって思ったの」

「そんなの当たり前だろう。バカじゃねーの?」

「部活のこと、しつこく言ってごめんね。走っている樹のことが好きでかっこいいと思っていたからだと思う」

 樹は虚をつかれたのような顔でわたしを見る。

「かっこいいって」

 走っている時と限定したのがまずかっただろうか。

 彼くらいになると、自分の顔が優れている実感があるだろうから。

「もともとかっこいいけど、なんか輝いていると思ったもの。もちろん、大会での成績がよかったのもあるよ。でも、本当に好きなんだろうなと感じたんだ」

 樹が目を見張る。あきらかに同様の走る目をしたのは、初めてのような気がした。

 だが、彼は急にわたしの手を離す。
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