わたしの意地悪な弟
 数学の問題を解いていると、机の上に影がかかる。

 すると、席を外していた利香が自分の席に戻ってきたところだ。

 彼女はわたしの机の上を見ると、苦笑いを浮かべた。

「最近、勉強頑張っているね」

「利香が樹にわたしのテストのことをばらすからだよ」

「樹君が気にしていたのよ。結果を教えてくれないけど、どうだったのかってね」

 だからって教えなくてもいいが、良いこともあった。

「樹が勉強頑張ったら映画に一緒に行ってくれるって言っていたの」

 わたしの言葉に利香は目を細める。

「最近、仲よさそうだね。何かあった?」

 きっかけは公園で彼を待っていたことだと思うが、樹との時間を親友と言えどあまり語る気にはなれなかったのだ。

大事な思い出はどこかむず痒く、自分で独占したいというある種の独占欲が働いたのだろうか。


「たいしたことじゃないよ」

 だから、そう言葉を濁す。

 彼女はわたしの気持ちを見透かしたかのように、深くは追及してこず、「よかったね」と肩を叩いた。
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