わたしの意地悪な弟
 男子の名前を続けようとしたわたしの言葉に、樹は言葉を重ねてきた。

「俺は見たかったわけじゃないし、板橋先輩たちと行って来たら?」

「でも、樹と約束をしたから、樹も一緒に行かない? わたしのクラスの男子生徒も何人か来るの」
「誰?」

 声のトーンが心なしか下がった気がする。

「岡部君に半田君、野間君」

 あからさまに樹が顔を引きつらせる。

 やっぱり半田君と顔を合わせるのは気まずいのだろうか。

「亜子が岡部君と一緒に映画に行きたいんだって。でも、なかなか誘えないから集団で行こうという話になったの。チケットに余裕があるから、樹の友達も一人誘いたい人がいれば誘っていいって」

 他の男子二人は今日中に誘い済みだ。

 まくしたてるように語ったことで、何かやましい言い訳をしているかのような気分になってきた。

 まっとうな理由だとは思うが、樹の目はどことなく冷たい。
< 60 / 287 >

この作品をシェア

pagetop